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第79章:知恵者と千年

―3001年 4月8日 午後1時35分 戦艦フリーセル 右翼―

「ここはどこぢゃ」

センネンは目をパチクリさせながら右翼にしがみついていた。
戦艦フリーセルの両脇には、巨大な球体に砲台が取り付けられた翼がくっついている。センネンはその翼の右翼部分に倒れていたのだ。

「死ぬ、死んでしまう」

センネンは必死で右翼をよじ登ろうとしていた。

「ニヤァ?まだ生きてるのかよ半獣人」

紫色の頭、チェシャがニヤニヤしながら右翼の砲台から歩いてきた。

「ぐ…?おぬし、見覚えがあると思えばあの時の!!」

腕を震わしながらセンネンは言った。

「ニヤァ思い出したか」

チェシャはどこから出したのか、両腕にくくり刀を握り締めている。

「早速だが死んでしまえ!国家戦士!!ニヤァ!」

チェシャはくくり刀を振り上げ、センネンに飛び掛った。

「獅子神・狩猟!」

センネンは素早く飛び上がった。そして砲台を見た。
ははん、あそこへ逃げ込み近距離戦に持ち込めば勝機はあるのぉ。

「避けるな!」

チェシャは激怒していた。

「狩猟・二連」

―シュバッ!バッ!ガシッ!

センネンは偶然あった砲台の梯子にしがみついた。

「このっこのおおおおお!!」
「獅子神…ハァ、怒りすぎもよくないのぉ、これじゃから若僧は」
「うっせえ!!」

チェシャは猫のごとく素早い身のこなしでセンネンの頭上まで移動した。

「知るぞ、コラ」
「あの時の妙な力か…簡単には知らさんぞ!獄炎海流」

―ずぁあああああ…

センネンの能力もチェシャを驚かすには至らなかった。

「ニヤァ、知ったぜお前の能力…」
「何!?」
「獅子神・獄炎海流!」

―ずぁあああああああ…

チェシャの両腕から強力な炎が発射された。

「!!」

センネンは素早く足元の鉄板を引きちぎり、両手で持った。炎は鉄板で多少さえぎることができた。

「ニヤァ…防御してくれなきゃ面白くねえ…」
「何なのじゃ?おぬしの能力は…」
「驚いたか?ニヤァ、聞いて驚け、俺の能力はオートノウハウ…相手の能力を知る能力だ」

チェシャはニヤニヤと笑いながら言った。

「…ようやく理解したわい、そりゃあ厄介な能力じゃな…」
「ニヤァ、そうだろうそうだろう…しかしだ!この能力紋には相手の能力を完全にコピーできない欠点があるんだぜ!これはネシやジャックしか知らない驚きの秘密だぜぃ!」
「何でそれをワシに教えるのじゃ」

そう言われたチェシャは青ざめた。

「あぁ!いっけね!秘密だってこと忘れてたぁぁ!!」

センネンは呆れた。こんなアホに負けてたまるか。

「獅子神…」
「何だ?お前の技は全て見切ってるんだぜ―」
「膝蹴り!」

素早くチェシャの顔に膝をぶつけた。

「ぶっはぁ!!ばっ…ただの膝蹴りじゃねえか!」
「騙される方が悪いわい、たわけが」

センネンはよろめくチェシャのすぐ前に着地し、両手を床に押し付けた。
そのまま両足を持ち上げ、チェシャの腹を2,3度、蹴り上げた。

「う、うぇっ!」
「獅子神・炎脚!」
「ニヤァ、獅子神・狩猟!」

3度目は回避された。チェシャはセンネンの技、狩猟を使いこなしていた。

「ワシの技じゃぞ、気安く使うでない!」
「そんなもん俺の勝手だろーが、お前の能力は全て見切ったんだ。なんせ俺は知恵者だからな」

知恵者じゃとぉ?センネンは顔をゆがめた。

「おぬしみたいなのを知恵者と言うたら、戦国武将はどれだけうつけなのじゃろうな」

少しムッとした顔でセンネンはそう言った。

「何だぁ?うつけ?ぶしょー?難しい意味ばっか並べやがって」

数秒後、

「…あ、理解したぞ、バカにしやがって!」

チェシャは両腕から何か妙なものを出してきた。

「ム?」
「ジゴス・パーク!!」

青黒い雷撃がセンネンに襲い掛かった。

「アレはサイモンと戦ったマウルの能力か!!」

センネンは側転をして雷撃を回避した。

「更に知るぜ、お前の親友は誰か?親?仲間?敵?全ての人間を知ることができる。お前の記憶のタンスを俺は開けられる。なんせ俺は知恵者だからな」

チェシャはニヤニヤと笑いながら自分を指差した。

「知恵者知恵者と、うるさいヤツじゃな。あ、だからチェシャか」

今更気付いた。

「これで終わりにしてやろう…」

チェシャが両腕を後ろに向けた。

獅子神・100連!!
「ぐ!!獅子神・100連!!

チェシャとセンネンの獅子神は互いにぶつかり合い、相殺された。

「互角じゃと…!?いくら知る力とは言え…ここまでとは!!」
「そこが重要だぜぃ。俺の力は知ってからも成長を続ける。したがって貴様の力も早々と習得しきってしまうわけだぜ。なんせ、俺は知恵者だから―」
「膝蹴り!」

―ドゴッ!

「ひでぶ!」
「二度も同じ手にかかるとは、成長せんか知恵者」
「うっ…うるせえ!!」

チェシャは両腕でセンネンの腰をつかんだ。

「なに!?」
「トランプ法術を見せてやる…ジェスターアウト!!

チェシャの身体が大きく回転し始めた。

「この回転力で貴様を壁に叩きつけてやる」
「ぐぅ…粉々になりそうじゃな…」
「ちなみにトランプ法術はトランプ人間にだけある紙の身体でしか使えない体術なのだ!!あ、ニヤァ、しまった。また秘密を喋ってしまった」

チェシャが笑った瞬間、センネンは自分の腕でチェシャの両腕の拘束を強引に解いた。

「ぐげっ!」
「獅子神・炎尾」

勢いよく身体を回転させ、チェシャの顔面に炎の尻尾を振り下ろした。だが…

「知ったぜ」

チェシャはバック転をして回避した。

「猫のように俊敏、そして賢い。それが知恵者さ。理解できるか?半獣人」

センネンは黙ったまま笑みを浮かべた。

「…何がおかしい?」
「くくく…できんな。お前みたいなアホになるぐらいならば、…一生バカで結構。だから笑えてしょうがないのじゃ…理解できるか?知恵者…」
「な、なにぃ!?」

頭に来たのか、チェシャの顔が真っ赤になった。

「ほらほら、さっさと勝負を決めるぞチェシャ。ワシには油を売っている暇などないのじゃ」
「…だったら」

チェシャは猛スピードでセンネンの片目が隠れている方へ移動した。

「獅子神・王牙!!」

―ズガァン!

鋭い爪でセンネンの右目を切り裂いた。

「ニヤァ~!知ってるぜ!貴様の右目は髪で隠れて見えないんだぁ!」

かに見えた。

「悪いのぉ…」
「な、なな…」

チェシャは青ざめていた。センネンの髪は逆立ち、ライオンのようになびいていた。

「今度は両目が開いておる」



「獅子神・王牙・八武燐」



ズバァァァ!!



「ぐぎゃああ」

チェシャは腹を切り裂かれた。噴き出るインク。

「…フゥ…これでワシの方が格上になったか」

センネンは息を吐いた。

「ぐっ、うう…」

チェシャは腹の傷を修復した。

「タフじゃの」
「ニヤァ…まさか変身能力まで持っているとは、さすがの俺も知りきれなかったぜ…なんでだ?なんで完全にコピーできなかった?」
「…さっきお主自身がそれを欠点だと言うとったじゃろがい」
「あ!そうだったか…ニヤァ、忘れてたぁ」

クッ!調子が狂う!

「獅子神・武烈・炎牙砲!」

フェヴを倒した技ならば…!ヤツにも知りきれまい!!
強力な炎がチェシャの身体をまとった。

「なっ!なにぃ!?」
「そもそも紙人間と炎じゃ相性が悪すぎるじゃろうに、相手を間違えたなチェシャ!」
「ぐっ…ぐおおおお…」

チェシャが炎の中で苦しんでいる。

「く、くあぁ…し、知ってやるぅ…知ってやるぞぉ!」

チェシャの目がカッと開いた。

「…まさか…」
「ニヤァ…知ったぜ。仲間の能力をなぁ!!


「オーシャンブルー!」


炎は一瞬で消し止められた。

「あの筋肉馬鹿(キャプテン・ウェイバー)の能力まで知るとは…」
「さっき紙人間と炎じゃ相性が悪いと言っていたな。勘違いするな。俺は炎だろうが雷だろうがすぐに打開策を練ることができる。なんせ俺は、知恵者だからな!」

チェシャがセンネンに襲いかかった。

「弱点を知った!オーシャンブルー」

センネンの身体に水がかかった。

「ふにゃあ!!」

これはマズイ。センネンの弱点は水だ。なんせ彼はネコ科だからな。

「しっ…しまった…」
「ニヤニヤニヤァ、貴様は俺と違って丈夫な作りじゃないんだろぉ?ククリ刀でかっさばいてやる」

鋭利な刃物をセンネンの首に押しあてた。

「とっとと死ね!」
「く、くそぉ…」


バゴォン!


「ニヤァ!?」

近くの壁が崩壊したのだ。右翼の接続部分に少し亀裂が入る。

「ニヤァァア!!」

悲鳴だろうか。チェシャは亀裂部分まですっ飛んで行った。

「ハァ…ハァ…」

濡れた身体を乾かさなければ…
センネンは炎で身体を乾かし始めた。

「しかし壁を壊すとは、どんな馬鹿野郎じゃ」
「ギガ!COOL!アーンドテメェ強すぎ!!」

ロゼオがスペードの触手を必死に回避していた。あの馬鹿野郎か。

「クソっタレ!お?センネンじゃねえか!」

ロゼオがこっちに気付いた。慌てて、

「ふんぎゃ!」

右翼を修復しているチェシャの頭をふんづけて走ってきた。

「お、おいおいおいおい、お主が来たらあの怪物はワシまで襲ってしまうじゃろうが」
「は?怪物って?」

そう言ったロゼオの背後から触手が迫ってきた。

「プラントマスター・クラックダンス」

スペードの声が響いた。

「うわっマズイ!」
「ばーか!」

センネンは大声をあげて両腕に炎をともした。

「獅子神・獄炎海流!!」

―ズゴォォォ!!

触手を全て焼き尽くした。

「うぎゃあ!」

スペードの声が響いた。

「今までアイツの触手をメガ回避しまくってここまでギガ逃げてきたんだ」
「ワシを巻き込むな。今ワシは…」

センネンはチェシャに指をさした。チェシャはまだ頭を抱えていた。

「いでぇええええええ!!骨、骨が折れたんじゃね!?…え!?おぉっと、ニヤァ、だったら死んでる!ニヤニヤァ、忘れてたぜ!俺は無敵の紙人間!あ、じゃなくてトランプ人間!ニヤァ、まさかの二度忘れ!」
「…あ、あ、あやつと戦っているだけで…精いっ、ぱい…じゃ」
「おいおい、あんなアホみてえなのにオメガ手こずってんのかよ?」
「や、やかましい!」

センネンが真っ赤な顔で叫んだとき、チェシャが立ち上がった。

「おぉぉぉい!!半獣人!やってくれるじゃねえか!え!?いきなり船体を破壊するとは!この、ひきょう者め」
「船を破壊したのはこの死神じゃい」
「ギガ、ごめんな!」
「お、そっちか…て、どっちでもいいわ!おいスペードさんよぉ!俺は今アイツと戦ってんだ!邪魔すんなよ!」

チェシャは崩壊した壁の穴に向かって大声を出した。

「知るか」

一言返ってきただけ。

「なあセンネン、お前ギガ雰囲気変わったか?」

ロゼオが不思議そうな顔でセンネンを見た。そう言えばワシはまだ変身をといてなかった。

「いかん!知られる!」
「もう手遅れよ」

チェシャの髪が逆立った。変身能力を知られてしまった。

「なんだぁ?アイツ…メガヤバいのかメガヤバくねえのかギガはっきりしてくれよ」
「ロゼオ、離れておれ!」

センネンがロゼオを突き飛ばした瞬間、チェシャがセンネンにとびかかってきた。お互い両腕を掴みあった。

「ぐっ…ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぃ…」

なんじゃこの力…。

「知った、知ったぜ?お前の仲間のロゼオは、エイプルという改造人間と戦ったんだな?ロデオドライヴ!!」

チェシャは牛のようになり、センネンを突き飛ばした。

「あ、あれは俺がギガ戦ったヤツの…!!」
「ぐっ!うう!!」
「ニヤァ!!」

完璧にセンネンの力を圧倒していた。センネンはオートノウハウの恐ろしさを理解しきっていなかったのだ。

「ハァ…ハァ…」
「ニヤニヤァ、貴様はたいしたこともないようだなぁ…」
「黙れ!知ることしかできんおぬしに、獅子の力なんぞ理解できんわ!!」
「できるんだよ、俺は知恵者だ。なめんじゃねえよ」

チェシャの身体が震えだした。

「お前の力を知りすぎちまったようだな」

炎がチェシャの身体を包む。

「な…!?アイツトランプ人間だろ?!何でギガ死なねえんだ!?」
「ロゼオ、絶対に手を出すなよ。おぬしの相手はあの食虫植物じゃろうが」

センネンは青ざめたままでロゼオに向かって叫んだ。ロゼオにとってこんなに怯えたセンネンを見たのは初めてだった。

「な、なあ…今あいつ、獅子の力をどうとかギガ言ってたよな。お前、獅子の力って何なのかメガわかるのか?」
「…ワシの父、獅子王が千年前に習得した究極の奥義、それが獅子の力・百獣王じゃ…あやつはそれを知ってしまったと言っておるのじゃ」
「…なあ…お前、1017歳とかってメガ言ってたことあったけどよぉ…それって冗談…だよな?」

ロゼオが聞いたとき、

―ガシャ…

スペードが瓦礫を破壊して出てきた。

「…おやおや、凄まじい狂気ですね。チェシャ、おもしろい力を知ったようだな」
「ニヤァ…スペードさん、半獣人の首を取ったらジャックを呼んできてくれ。見返してやるんだよ、あのクソ野郎にな」
「…ふん…おい死神、貴様、勝負を投げるわけではあるまいな」

スペードはロゼオに向かって叫んだ。

「んなわきゃねえだろ!ギガ、斬る!」

ロゼオは鎌を持って走り出そうとした。しかし、チェシャの変化に気付き、足を止めた。

「なっ…ギガなんだ!?」
「こ、これは…」

ロゼオとセンネンが同時に声を漏らした。
まず、チェシャの額に鋭く醜い目が浮き出た。

「うげ!」
「!?」
「…なんと…」

スペードですら、ヤツの豹変には仰天した。

「ニヤァァァァァァァァァッハハハハハハハァ!!」

続いて、両腕に鋭い爪が生え、その腕の関節から触手が伸び始めた。

「うぎょ、び、ば」

チェシャは奇妙な悲鳴をあげながら変身していった。

「ま、まさか…こ、こんな醜い化け物が、父の残した力…?」
「…センネン…?」

―がたがたがたがた…

センネンとは思えないほどのおびえようだ。

「おい!どうした!!」
「ニヤァ…変身完了だ」

センネンを支えるロゼオの目に入ったのは、おぞましい目が無数にうごめく黒い獣だった。足は4本、頭は2つ、腕は8本…とても生物とは思えない。

「…なんだよアレ…」
「ち、父上…父上ぇ…」

センネンが弱々しい声を上げた。見ると、彼は大粒の涙をこぼしていた。

「センネン、らしくないぞ!しっかりしやがれ!!」

ロゼオはセンネンの肩を掴んだ。

「やかましい!!おぬしにはわかるはずがない!!」

―バシッ!

センネンは泣きながらロゼオの腕を振り払った。

「ワシは…千年間も父上の力に憧れておったのじゃ!父上が教えてくださる時に、ワシは、ワシは…!!」





今から約千年前―





獣人族はまだ数は少なかった。人間族が暮らす世界の地下、そこでは誇り高き獅子型の獣人が生活をしていた。

「獅子王、人間族の女がまたやって来ました」

虎頭の獣人が王の元へ歩いてきた。王は、獅子の頭を持つ偉大な戦士だった。

「今度は何の用だ。いいか、たとえツナ缶を持ってきても話などしてやらんと言え」
「今日も持ってきたと言っておられましたが、まあ、人間なんぞ入れてはいけませんね」
「ま、顔だけでも合わしてやるか」
「え」




「何だそのガキは」

女は、紺色の髪を持つ小さな男の子を獅子王に見せ付けた。

「ふふ、アンタの子だよ」

女は言った。

「何?」
「ほら…この子の耳を見て」
「何を…うぉ」

子供の耳はとがっていた。おまけに尻尾も生えている。

「この子の名前をつけてあげてよ。アンタの子なんだから」
「…わかった、そうか、できちまったもんは仕方ねえからな」

獅子王はその子を抱きかかえて、こう言った。

「この子の名前はセンネンだ。千年もの獣人族の歴史の中で、初めて生まれた半獣人だからな!」



数年後―



「何故だ、何故人間にばれた!!」

獣人たちの世界は人間に侵略されていた。

「獅子王―!!」

センネンの母親である女が走ってきた。隣には17歳になったセンネンが息をあげていた。

「お前等…またここにきやがって…」
「獅子王、信じて、私は外の人間にここのことは教えてないわ!!」
「お前等を疑うわけないだろ、それより、何でここに来たんだ」
「あなたが心配で来たに決まってるじゃない!!」

女が言った時だった。後ろから人間が銃を構えて襲い掛かってきた。

「危ない!!」

獅子王が叫んだとき、センネンは腕を向けた。

「獅子神!」

―ボォウ!

獅子の形をした炎が人間を焼いた。

「うぎゃあああああああああああ!!」

人間は火だるまになって走っていった。あの技は獅子王の技だった。

「お、お前…俺の力を…」

驚いている獅子王に、女は笑顔でこう言い出した。

「その子もあなたの血を継いでるのね。お願い、センネンにもっと技を教えてあげて、ここから早く逃げて…」
「…お前…」
「私じゃ無理だった。外の人達にはまだ亜人種は認めてももらえていない。だから、あなたと一緒の方が、この子も幸せなのよ」

センネンは黙ったままうつむいていた。

「…お前の気持ちもわかる。だがな…」

獅子王は頭上を見上げた。女も見上げた。

「…!!!」

何十人もの人間達が銃火器を持って降りてくるではないか。

「このままじゃ皆殺しだな」
「そ、そんな…」

青ざめる女を見て、獅子王は笑みを浮かべた。

「この子だけでも助けよう」
「…え?」
「この子を安全な場所へ避難させる」

獅子王はセンネンの腕を掴んだ。

「…父…上?」

センネンは不安そうな顔をした。

「…センネン、俺はお前に獅子王の力・百獣王を授けたかった…だが、もう遅かったようだ」

笑顔の獅子王の周囲では、虎、豹、猫などの頭を持つ獣人達が何かを唱え始めた。

「お前はこれから次元を彷徨う事になるだろうが、心配いらん、お前には必ず仲間ができる。精神を鍛え、仲間を守れ、偉大な獣人族の血を守るのだ!」

獅子王は更に続けた。

「大丈夫だ。時間はかかるだろうが百獣王の力も必ず手に入れることができるだろう…未来をあきらめるな、わが子よ」

獅子王がそう叫んだ時、

「タイムトラベル!!」

獣人達が大声で叫んだ。

「あぁっ!」

センネンの身体が光り輝き、少しずつ、消えていく。

「あっ、父上、父上、母上、母上、父上―っ!」


「バイバイ」

―ダァンッ!

センネンの母親は涙をこぼしながら、人間に撃ち殺された。


「う、うあっ…うあああああああああああああああああああああああ!!」


獣人達が殺されていく中、獅子王だけは、仁王立ちのままセンネンを銃弾から守り続けた。センネンは頭だけになった。

「ち、父上…」

獅子王は、最後にこういい残した。

「俺の獅子王の力を、必ず習得してくれ、センネ…」


バシュッ!


獅子王は、頭を吹き飛ばされた。



「父上ぇ――――――――ッ!!」


センネンは、次元の狭間へ吸い込まれていった。




そして今―



「お前は…本当に…千年前からやってきたのか…!?」
「…ワシは父上の言う通りにあきらめなかった。必ず獅子王の力を手に入れようと鍛錬もした。それなのに…ワシが求めていた力は…化け物になる力だったというのか」

センネンは歯軋りをしてチェシャをにらんだ。

「ニヤァ」

チェシャは無数の目をセンネンに向け


「この千年間が無駄になったな、ニヤァァ」


そう言った。


第80章へ続く

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