第81章:龍
―3001年 4月9日 午後1時38分 戦艦フリーセル 下部―
「エリザ…なんだね?」
サイモンはゆっくりと立ち上がった。
カラン…エリザはくくり刀を床に落とすと、ワナワナと震えだした。
「サイモンなの…?サイモンなのね…?」
エリザはそのままサイモンに抱きついた。
「サイモン、サイモン…あなたも改造されたのね?」
「ああ…無事でよかったよエリザ」
サイモンは右腕で彼女の頭を抱きしめた。
「うひょひょ!」
ダンプティの声だ。見ると、ダンプティが紅白兵を連れてずかずかと迫ってくるのが見えた。
「くだらんメロドラマは地獄でやりやがれ!安心しろぃ、愛し合っている同士、仲良く殺してやるさ!うひょひょ!」
サイモンはエリザの肩に手を置いた。
「エリザ…離れていてくれ」
「…うん」
サイモンはトリックランスを振り回し、ダンプティに向けた。
「キミに用はない。どうせ大勢でくるならカードキーのパーツを持ってきてほしかったね」
「うるせえ!野郎共!打ち殺せ!!」
「うおおおおおおおおおお!!」
紅白兵が一斉に襲い掛かってきた。
「ガイアー!」
―どどどどどど!!
上空の紅白兵は猿腕により粉々に破壊されていく。かといって、正面から狙おうとすると、槍の餌食になる。
「クッ!ダメだ!コイツ強すぎる!」
紅白兵達はたじろぎ、逃げ出そうとした。
「貴様等!逃げる気か!?」
ダンプティが叫んだ。
「キミはキミで、人に頼りっきりかい!?」
サイモンはダンプティに向かって飛び掛った。
「わっ!び、ビックリエッグ―」
「それは効かない!!」
「無双・羅刹閃!!」
「びぎゃっ!」
ズバァッ!
ダンプティの胴を円を描くように切り裂いた。
「フゥ…」
「だっ、ダンプティ・ハンプティ様!!」
「この野郎!」
紅白兵は悲鳴をあげながら後ずさりを始めた。
「う、うひょ…この、や…ろ…」
ダンプティの傷は一瞬で治癒された。
「そう言えばトランプ人間には核があるってさっき知ったとこだったんだ。今度は核を狙わせてもらうから…そのつもりで」
「うぐっ!!」
ダンプティが呻いた時、天井がど派手に弾け飛んだ。
「きゃあ!」
エリザが叫び声をあげた。
―がららららららら…
「しぎゃあああ!!」
ダンプティ含む紅白兵達の上に瓦礫が降り注いだ。
「ウン!?なんだよ一体!!」
見ると、長い金髪と短い銀髪を確認できた。
「バロンとクリス君か!」
その後、大量のエースがわらわらと降ってきた。
「えぇえ!?なんだいあれは!!」
「サイモーン!とりあえず逃げるぞぉぉ!!」
バロンはそう叫びながらかっこよく着地した。が、その頭上にクリスが激突した。
「うごっ!美女の頭突きと来たか!これは痛い!」
…。
「あの人達は…知り合いなの?…あの金髪の人、ちょっとかわいそうな人なのね…」
―ドスッ!
「う″っ!」
エリザの質問はサイモンに深々と突き刺さった。彼が自分の親友だとはとても言えない今日この頃。
「…ウ、ウン」
「サイモン、サイモン!手を貸してくれ!!」
バロンはクリスを支えながら叫んだ。
「ウン?…クリス君の様子がおかしい…!?」
サイモンは二人の元へ駆け寄った。クリスの腕が妙な方向へ曲がってしまっている。
バロンのズボンの裾で支えられてはいるが、クリスは苦しそうだ。
「わりぃ、負傷しちまった。悪い、俺の責任だ」
「バロン…まさかキミが能力を誤って…?」
「そこまでコントロールできないわけねえだろ、勘違いするな…アイツがやったんだ…いや、アイツ等か…」
天井に開いた穴からは、まだまだエースが飛び出てくる。
「すまねえ…俺じゃ守り切れなかった」
「キミがか!?…」
バロンを圧倒したというのか…。
「エースは簡単には倒せないわよ」
エリザが歩いてきた。
「おりょ、なんだこの姉ちゃんは。こりゃまた美人だなぁ」
バロンが嬉しそうに顔を向けた。
「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ?それより、キミは戦えるのか?」
「一応、な」
バロンの両腕が光った。
「170人は曲げ殺したが、すぐに増えちまうんだよアイツ」
「直接的な攻撃ではすぐに増殖してしまうわ、彼はエース。禁忌能力紋の一つ、アーケードマスターを使う能力者よ」
エリザがエース達を見上げながらそう言った。
「アーケード?」
「ええ、アーケードゲームのキャラって敵に対しても有利な能力を持っていることとか多いでしょ?エースはその能力をほとんど使いこなせるのよ」
「ゲームキャラの能力?ふ、ふざけてるよ!」
「ふざけているわけじゃねえと思うぜ。俺はアイツ等とやりあったが、結構手ごわかった。なあ、ゲームには詳しいか?サイモン」
「う、ウンン…僕はパックミェンしかやったことない」
「そうか…俺はボンボンマンしか知らん」
「あらあら、二人ともゲームには詳しくないのね。私はモリオとビーカァの初代版を知ってるのに」
「二作だけじゃねえか。五十歩百歩って言葉知ってるか」
青ざめる3人を見下ろしながら、エースは笑みを浮かべた。
「ファイアエース!!」
―ボォォッ!!
炎が3人を襲う。
「いかん!オーラ・ルベント!!」
バロンのオーラによって炎が曲がり、横の壁を粉砕した。
「ひゃははは!ならば全部曲げ切ってみろ!!」
何十人ものエースが一斉に炎を発射してきた。
「クッ!くそぉ!」
「ウンン…」
「炎の移動範囲は一定ッスからそれをつかめばなんなく避けられるッスよ☆」
「え?」
サイモンはエリザを抱えて左に飛んだ。バロンもそれに続く。
「おお!た、確かに炎は一定の間隔を保っているぞ」
バロンは驚きの顔でそう言った。炎は床に当たると同じ感覚で跳ねるのがよくわかる。
「ふふふ…ゲーマークリスの役立つ瞬間が訪れたッスか!」
クリスが腕を押さえながら叫んだ。
「予想外の救世主だな」
バロンはつぶやいた。
「サイモンさんバロンさん、女さん!早くこちらへ!」
クリスは物影に身を潜めていた。
「ありがとう、ちなみに彼女はエリザさ」
3人は物影に飛び込んだ。
「ひゃはははは、逃がさんぞ」
エースの大軍は笑顔で走りだした。
「自分は無力でした。アイツを止められなくてすいません。ヤツの能力紋でさえ理解していれば…」
クリスは腕を押さえながら頭をさげた。
「気にするな。相手が悪すぎるだけだ」
バロンは笑みを浮かべた。
「それよか、お前ゲームに詳しいんだな」
「まあ、アーケードゲームの大半は知っているから、ひょっとしたら弱点も見つかるかもしれないッス」
「そうか…よし、俺とサイモンでアイツをとめてみるから、アドバイスよろしくな」
「うッス!」
「エリザはクリス君を頼むよ」
「わかったわ」
エリザがうなずくと同時に二人は物陰から飛び出した。
「うおおおおおおおお!!」
エースの大群が一斉に襲い掛かってきた。
「あの構えはスーパーファイトの豪・正輝の必殺技・爆炎掌ッス!ちなみに正輝は9人のキャラの仲でもっとも使いやすいキャラで―」
コイツ…緊張感の無い戦いになりそうだ。
「どうやって回避すりゃあいいんだよ!!」
バロンが汗を流しながら叫んだ。
「回避もくそも、これはあまり強力な攻撃じゃないはずッス!」
「何?…そっか、なら…」
バロンは両腕を後ろへ引き、オーラをため始めた。
「オーラ・ルベント…刃掌扇(ばしょうせん)!!」
―ズワァッ!
「ぐびゃあ!」
扇形のオーラが中央のエースを曲げ殺した。
「おぉ…ウン、すごいよ!!」
「へっ、驚くのはまだ早いぜ」
バロンはそのままオーラを左右に振り回し始めた。
「うおらぁあああああああああああああああ!!」
―ばきべきぼきべきばき…
エース達が凄まじい勢いで曲がっていく。
「ぜ、全滅したのか?」
サイモンは驚きながらつぶやいた。
「これで倒せたら苦労しないぜ」
バロンはタバコを吸い始めた。エースが立ち上がる。
「やっぱり」
「…ひひひ…1UP…」
―ピロリロリロリ~♪
エースが分身し始めた。
「…!!」
サイモンは仰天した。
「へっ、これぁクリスも勝てねえや」
バロンは青ざめながらタバコを踏み潰した。
「…ヤツを倒すには核を狙うか炎系の技で消滅させるかだね…」
「そんな技、持ってるのか?」
「ウン…誰も持ってないね」
サイモンは土、バロンは能力紋、クリスは風、エリザは改造人間…炎的要素はどこにも見当たらない。ひょっとしてピンチなのではないだろうか。
「今更気付いてもおっせぇよ!!ひゃっはっはっはっはぁっ!」
―ズボッ!
ダンプティが顔を出した。
「は―…うぉ」
「エース、いきなり何だお前は!」
「ダンプティ、お前下敷きになってたのか、情けないな」
「いいから抜け!」
「しめた!今がチャンスだぜ」
バロンはクリスを抱きかかえるとスタコラサッサと駆け出した。
「無意味な戦いは避けよう、早くアリス様を救出しちまおうぜ!!」
「あ…」
サイモンは思い出した。カードキーのパーツ、各幹部が持っている。アリス、腕、爆弾、カードキー。
「あ!!」
「な、なんだよ」
「忘れてた…」
サイモンは青ざめながらそう言った。立ち止まったバロンとエリザはキョトンとした。
もっとも、クリスはダンプティ・ハンプティの奇妙な身体に夢中で聞いてなかった。
「手短に話すよ。ネシがアリス様に爆弾をして幹部がキー持ってる」
「手短過ぎるだろ。もっと広げて話せ」
サイモンはバロンとクリスに事の次第を説明した。
「爆弾か…そのネシって野郎はとんでもないどエスだな」
「そういう問題かい」
「そうと決まれば、あの卵みてえのと、分身野郎からパーツをかっぱらわなきゃならねえんだな?」
ちょ、口調。
「一応あの卵の身体は調べたよ。分身野郎はわからないけど」
「とにかく、調べてみたいとわからないッスね…リスクは高いけど」
「…僕が調べよう」
サイモンは槍を握り締めた。
「…本気か?」
「ああ…バロンはもう身体がガタガタだろ?」
バロンの身体はすすけていてもうボロボロだった。限界に近かったのだ。
「…役に立てなくてすまん」
「ウウン、そんなことないさ…後は僕に任せて…」
サイモンはゆっくりと槍を回し始めた。
「エリザ、安全な場所まで彼らを誘導してあげて…」
「…サイモン、もっとゆっくり話がしたいのに…」
「大丈夫だよ」
サイモンはそれだけ言うと、エースとダンプティの元へ走っていった。
「!?」
エースが気付いた。大群たちはサイモンに炎を発射した。
「リズムさえつかめれば!!」
サイモンは炎をフットワークを駆使して回避していく。
「なんだコイツ、いきなり動きが!!」
―シュバッ!
サイモンは空高く飛び上がった。
「ガイアー!」
サイモンは叫んだ。
「うひょ!?何をするつもりだ!?」
「ひゃは!!」
「…上空なら僕の方が優勢だよ」
「猿腕波動乱劇」
―ずどどどどどどどどどどど!!
ダンプティとエースの大群は、猿腕の波動に押しつぶされた。
「さあ、パーツはいただくよエース」
サイモンがそう言ったとき、無数の腕が下から伸びてきた。
「ウン!?」
「ひゃははは…よくも俺をコケにしてくれたな…いっとくが俺の能力に全てパターンがあると思ったら大間違いだぜ」
サイモンは、下降していくなかで無数のおぞましく光る目を見つけた。そして、
「…アーケードマスター最強の力、ボスドラゴン…ひゃははははははははぁ!!」
サイモンはそれらを見た。
一方、地上では…――
―ドアノヴの家にて…―
ドアノヴの家の地下は天の柱の集中管理室、操縦室となっており、国民全員が入れるほどの広さだった。
ドレッドとレインは国民達を無理やりここに押し込めて、入り口で紅白兵を追っ払っていた。
「クソッ!こいつらしつこいぜ!!」
ドレッドは十手を振り回して紅白兵を切り裂いていた。
「レイン!テメェも手伝え!」
「やなこった、こっちに何の得もないじゃないか」
「正義のヒーローが大好きなんだろぉが!」
「それとこれとはわけがちがうのさ、大体なんでボクのような貴族がキミのような野蛮人の手伝いをしなきゃならないのさ」
「誰が野蛮人だ!」
ドレッドの言葉もまともに聞かずに、レインは本を読んでいた。
―宮殿跡―
「うぐぐ…」
武賀原アギトは生きていた。宮殿は全壊し、瓦礫の山と化していた。
「もう終わりだ。アリス様がいなければわたし達はもう破産だ」
「シクシクシク」
トークスとドゥルードも無事なようだ(何故に)。
「ま、ママ…」
アギトはべそをかきながらベッドの下から這い出し、空を見上げた。巨大な戦艦から大量の紅白兵が降ってくるのが見える。
「あ…ああ」
アギトは青ざめた。
ここは地獄になったのか?
一方、レッキとミサは…――
―戦艦フリーセル 内部武具庫―
「レッキ、怖いよ」
「僕の手を離しちゃダメですよ」
やっと登場できた。僕はミサの手を引っ張りながら、薄暗い武具庫の中を歩いていた。
弾薬や刀の入った箱が積まれた棚がいくつも並んでいる。
「うわぁ…西洋の武具かぁ…すごいなぁ…」
敵の手中でありながら、武器にはかなり興味がわく。
「びええ、レッキのんきですの」
「使える武器があったらもらっていこうかなぁ」
何気なくつぶやいた時、ヒュッ…空気を切る音がし
―ザンッ!
間一髪のところで僕はミサを抱きしめて床に伏せていた。武具庫の棚は全て横一線にきれいに切られていた。
「何だ!?」
慌てて火炎放射機と散弾銃を構えるが、敵の姿が見当たらない。
「神技神眼…」
ミサを自分の身体の下に入れたまま、僕は神技を発動した。一瞬だが、頭上で何かを確認することができた。
「クリエーション・指刀牙狼!」
―ズバァ!
身体を回転させるように頭上の何かを切りさばいた。
―ズトッ!
何かが落ちた。
「誰だ!!」
見ると、シルクハットをかぶった奇妙な老人だった。
「ワシはクレイ爺と申します。いやはや、あなたは戦闘になれておるようじゃな」
クレイ爺と名乗る老人はニヤニヤと不適な笑みを浮かべる。
「冗談じゃない。シルクハットを僕の前でかぶらないでくれ」
「にっひひひひ、あの女子も同じことを言っておったのぉ」
クレイ爺は両手にサーベルを握っていた。
「あれで斬ったのか?…いや、そんなバカな。面積がおかしい」
この部屋全体の棚が切られている。部屋の広さは約20メートル。クレイ爺のサーベルは1メートル。
「能力紋か…!!」
「にっひひひひ、今更遅い、女と仲良くおやすみなさい!!」
クレイ爺が走ってきた。
「神技神わっ…」
「獅子神・王牙!!」
―ドバァッ!
クレイ爺の身体を炎が包んだ。
「うっぎゃあああああああああああああ!」
クレイ爺はのた打ち回りだした。
「センネン♪」
ミサは嬉しそうにそう言った。
「…センネン」
僕はほっと胸をなでおろした。センネンはいつもどおりの童顔で腕を組んでいた。
「待たせたのぉ、パーツを取ったぞ」
第82章に続く