第84章:不屈の精神
―戦艦フリーセル 敷地―
「こ…このやろ…」
キング・レッドは血走った眼でリクヤをにらんだ。
「俺流俺式…」
「紅白兵!」
紅白兵がリクヤに飛びついた。
「そのまま殺せぇ!」
キング・レッドは笑みを浮かべて叫んだ。
「お、おおおおお!!」
力づく。リクヤは紅白兵達を振り払った。
「ガハッ!」
もう身体はガタガタだ。リクヤの体力は限界すれすれに近かった。
「俺は負けねえぞ…」
「だったら、全力で潰してやる。このゴキブリが」
キング・レッドは両腕をドリルに変えた。
「ゴキブリらしく、無様に潰れろで、あーる」
―ぎゅいいいいいいいいいいん!!
「くそ…せめて、せめて剣さえありゃあ…」
うつろな右目でリクヤはキングの顔をにらんだ。
「ドリル剣・二双!!」
―ギュィン!
左腕のドリルは屈んで回避した。
「まだまだぁ!」
右腕は後方に飛んで回避。
「ちょこざいな真似を…」
「漢腕掌!!」
リクヤはキング・レッドのアゴを殴りつけた。
―上空―
「リクヤを発見したぞ!!」
スチルが戦艦の敷地を見て叫んだ。
「なんやと!?どこどす!?」
「そこの芝生のあるところだ!ミソラもいるぞ!」
「あれが…リクヤ?」
後部座席のフリマは青ざめた。血だらけでフラフラと揺れている人間はたしかにいるが…。あれがあのリクヤだというのか。
「なんということだ…私の…計算ミスだ…もっとパンドラの隊員を早く救援に送れば…」
プロ指揮官は目を見開いてワナワナとつぶやく。
「すぐに救援に行く…うちは行くで!!」
「うむ、プロ指揮官殿、出動命令を!俺が許す」
「よし…スチルサウザンド・ドンナ、フリマ・ドンナ…出動せ―」
『待て』
無線から聞こえてきたのは、ドン・グランパの恐ろしい声だった。
「ドン・グランパ!?」
「…こんなときに何の用ですかな?」
苛立ちながらプロは聞いた。
『お前ら、手を出すな』
ドン・グランパは静かにつぶやいた。
「いい加減にしてくれ!あなたは間違っておられる!!今のリクヤの現状がわからないのですか?!」
プロ指揮官は大声で怒鳴った。
『ああ、全て見えている。お前らの戦闘機のカメラからな』
「なら―」
『お前らはヤツの過去を知ってるだろ?』
ドン・グランパの言葉に3人は何も言い返そうとしなかった。
「…」
『案ずるな、俺に任せろ』
そう言ったきりだ。ドン・グランパからの無線は途絶えた。
「わかってます…」
フリマはうつむいた。
「わかってますけど…」
今から約10年前…
『えー…国家機関養成学校襲撃事件についてです、現在上空から中継でお送りしています。ご覧ください、養成学校は炎に包まれています。すごい炎です。ここまで熱さが伝わってきます。この学校は昨夜何者かによって襲撃されたとのことです。現在、被害に関しては詳しいことはわかっておりませんが、おそらく絶望的だと思われます。では、スタジオにお返します』
パンドラの隊員達は学校前で立ち尽くしていた。
「お…おい、マジかよ…」
ロキはくわえていた葉っぱを落とした。
「う…嘘や…う、うちはここの子達に属性魔法教えてあげようと思うてたのに…」
フリマは首を何度も振りながら後ずさった。
「嘘や…嘘やぁ――――――っ!!」
座り込んで泣き出した。
「スチルとアリシアとマシュマは呼ばない方がよかったな…」
ロキはシークにそう言った。
「そうだな…」
シークはそう答えた。
「お前がいてくれた時でよかったよ」
「……」
シークはシルクハットをととのえた。
「ウェイバー、頼む」
「…任せろ…子供達をこれ以上苦しめるわけにはいかないからな」
キャプテン・ウェイバーは空に腕を向けた。
「キャプテン・スコール!」
―ドバァアアアアアア…
すさまじい雨が学校全体に降り注いだ。そして、火は消し止められた。
「くそ…」
ロキがつぶやいた。転がるのは小さな黒こげの死体ばかり。生きている人間は、いない。
「せっかく炎が消えたのによ…面倒くせえ」
ロキは空をみあげた。ウェイバーの発動したスコールはまだ降り続けていた。
「ゆ…許せん…誰がこんなむごいことを…」
ウェイバーは歯ぎしりをしながら震えていた。
「一人しかいねえよ…」
シークはそう言った。
「アイツしかいないんだ…こんな…残酷なことができるのはアイツしか…」
『パンドラの隊員はすぐに戻れ…本部からの命令だ』
プロ指揮官が静かに命令した。
「おやっさん…俺、もうちょっと探してみますよ」
シークは答えた。
『見てわからないのか?もう無駄だ。生存者がいるはずがない』
「調べてみないとわからないでしょうが、俺は残りますよ」
「待て…俺達はだろ?…自分勝手なこと言うんじゃねえ」
ロキ達が集まってきた。
「俺も残るぜ、面倒だの言ってる場合じゃねえしな」
「うちもや…」
「私も残るぞ」
プロ指揮官はため息をつくと、
『…わかった、私も最善を尽くそう』
そう言った。そして、それから何時間も捜索は続いた。
「まだあきらめないぞ…」
瓦礫をどけて、泥だらけになってもパンドラ達は捜索をやめなかった。
しかし、見つからない。見つかるのは、死体だけだ。
「…やっぱり…駄目なのか?」
シークがこぶしを握り締めたとき、わずかだが、笛の音が聞こえた。
「…!?」
シークは走り出した。向かった先には、黒こげの死体の山があった。
『ピィィ…』
やっぱり聞こえる!シークは死体を一人ずつどけていった。そして、
衰弱したリクヤを見つけた。
『ピィ…ピィィ』
教官の持つ笛をくわえてよわよわしく吹き続けていた。
「お…おい!救援をよこせ!生存者だ!まだ生きてるヤツがいる!!」
シークは仲間に向かって叫んだ。そして、リクヤを注意しながら瓦礫から引っ張り出した。リクヤは疲れ切ったのか、気を失っていた。
「…男の子だ…まだ…まだ生きてるぞ…よかった…よかった…」
シークは涙をこぼしながら言った。
そして、俺は…力に執着するようになった。
もう、誰も死なせやしない。
苦しむのは、俺だけで十分だ。
そして今…
「うおおおおおおお!!漢腕掌!!」
キング・レッドの身体を全力で殴りつけた。
「グフッ!ウゲッ!ガッ!この…ドリル剣・乱舞!」
ドリルがリクヤを切り刻む。
「うあああああ!!」
「調子に乗るなよ…」
キング・レッドは息切れをしながら笑みを浮かべた。
「お前には負けないぞ…ミソラの支部も終わりだ。お前は誰も救えない」
「違う!俺は誰も苦しめさせはしない!テメェを倒し、ミソラを救う!絶対になぁ!」
「くだらん!!」
キング・レッドはドリルを振ってリクヤを吹き飛ばした。
「すぐにその生意気な右目もつぶしてやる」
リクヤは震えながら立ち上がろうとしている。
「ダメだ…からだに力が…」
「リクヤ…」
リクヤは後ろにいるミソラを見た。俺に惚れた女がいるってのに、情けねえ…。まだ腕は動く…たとえ首だけになっても野郎の喉笛を切り裂いてやる…。
リクヤがそう思ったとき、ふところが熱くなった。
「…?」
これは…。ドン・グランパからもらった能力紋・ゲートの札。まるで太陽のように輝いている。
「…!?なんだ!?」
キング・レッドはドリルを解除し、まぶしそうに手を掲げた。
「何か…出てくる…」
出てきたのは、刀の柄だった。
「これは…日本刀!?」
自分の背丈よりも長い刀が能力紋から飛び出てきたのだ。
「…まさか…ドン・グランパが」
そう言ったリクヤに、キング・レッドが襲いかかった。
「死んでしまえぇ!」
「リクヤァ!」
ミソラが叫んだ。
「…!!」
リクヤは日本刀を鞘から引き抜き、ガードの体勢をとった。
―ガキン
キング・レッドのドリル剣が砕けた。
「…あぎゃ!?」
間の抜けた声をあげたキング・レッドは、しばらく何が起こったのか理解できなかった。
「…なんだ。この刀は…」
リクヤは驚きをかくせずに、その刀を見つめていた。赤く光っている。
「は…は?」
キング・レッドはひきつった笑顔で片方のドリル剣を振り回してきた。
「はああああああああ!?」
「!!」
リクヤはキッとキング・レッドをにらんだ。
「最上家紋!」
球体型の剣撃をキング・レッドにぶつけた。
―ずばばばばばばばばばばば…
キング・レッドの身体に大きな傷が刻まれた。
「あんだとぉ?!」
「五月雨・竜巻!!」
回転しながらリクヤはキング・レッドの片腕を切り裂いた。
「うぎゃああああああああ!?」
叫び声を出しながらキング・レッドは壁に背中をつけて座り込んでしまう。
「どうなってやがる…お、俺…さっきまで立てもしなかったのに…」
リクヤは自分の姿を見た。確かに血まみれだが、普通に立てる気力が戻っている。
「ぐはぁ…はぁ…」
キング・レッドは立ち上がった。両腕はすでに修復されている。
「ドリル剣!!」
―ぎゅいいいいん!!
「何で?!何でであるか!?私のドリル剣が、負けるだとぉ!?う、うう、うきゃあぁ!」
キング・レッドは奇声をあげた。
「ドリル剣・乱舞!!」
ドリル剣のすさまじいラッシュだ。リクヤはそれらを刀でガードし続ける。
「…!!」
戦闘機からリクヤを見ていた3人は驚愕の表情をい浮かべていた。
『見えるか?』
ドン・グランパが無線を通してそう言った。
「ええ…ドン・グランパ…あれは何ですか?」
スチルがそう聞くと、プロ指揮官が代わりに説明を始めた。
「驚いた…あれは妖刀・阿修羅だぞ。持つ者の気力によって力が変わるといわれる、まさに武神にふさわしい刀だ。まさか…ドン・グランパが持っていたとは…」
『俺が全盛期の時に使ってた刀だ。今は、俺よりもあいつにふさわしい』
「どうなっとるんどす?リクヤはん、めちゃくちゃ強くなってますえ!?」
プロ指揮官はリクヤを見つめたままこう言った。
「あれは気力による刀の反応だ。…リクヤは国家機関で一番の努力家であり、気力、不屈の精神を持つ男だ。すなわち彼にとってあの刀は、自分を武神のごとく強くさせる最強の武器となるのだ」
「うおおおおおおおおおおお!!」
キング・レッドのラッシュはとまらない。リクヤは刀を左右に振り回し、ガードしていく。
「こ、このやろぉお!」
キング・レッドが怒りのあまり叫んだ瞬間、リクヤは彼の服のポケットをないだ。
「ハッ!」
リモコンだ。
「クッ!」
キング・レッドはあわてて拾おうとした。
「でやあああぁっ!」
リクヤは地面スレスレまで伏せ、キング・レッドの両足を切り落とした。
「ひぎぃっ!」
キング・レッドは地面に倒れるが、リモコンを取って戦艦の外へ放り投げてしまった。
「!!」
「ふははははは!これでもう とめられまぁああいである!!」
キング・レッドがすべて言い終えるまでに、
「うおおおおお!!」
「え″っ!?」
リクヤは全力で走りだし、戦艦から飛び出した。そして、
「え?」
「壱直・誠斬り!!」
下から上へ刀を振り上げた。
リモコンは真っ二つに切れた。
「あああああああああ~!!」
キング・レッドが叫ぶや否や、リモコンは爆発した。
「あああああああああああああああ!!ああああああああああ!!である」
キング・レッドは絶叫し続け、頭をかきむしっていた。リクヤは素早く戦艦の壁に刀を突き刺して敷地に飛び戻る。そして、
「やったぜ」
ミソラに向けて親指を立てた。
『キング・レッド様、支部に放ったロケットが到達する前に爆発いましたよ!?』
無線でそう聞こえた。
「…助かったの?」
ミソラはヘナヘナとへたりこんでしまった。
「どうだキング・レッド、俺はたくさんの命を救えたぞ」
リクヤがそういうと、キング・レッドは震え始めていた。
「すす救えただとぉ?お前とミソラがいるじゃないか。お前の、仲間もぉ…へへへ、皆殺しにすればいいんだ。みんな、みんなぁ…である」
様子がおかしい。
「お前のせいで、お前のせいでみんなめちゃくちゃだぞぉ…お、ま、お前の、せいで…ある」
キング・レッドが発狂した。眼は黒くなっていないが、その姿はまさに発狂したジャンのようだった。
「う…うお」
「うははははははははははははははは!!」
キング・レッドは耳をつんざくような笑い声をあげ、ドリル剣を振り回し始めた。
「これで私に対するネシ様の信用はがた落ちじゃあ!!もう許さねえ!!テメェをぶち殺してくれるわぁ!!である」
「ベタじゃねえ!」
リクヤは素早く回避し続ける。
「ミソラ、もっと離れてろ!!」
「リクヤ…!!」
ミソラが叫んだ時、リクヤはキング・レッドに足をつかまれてしまった。
「しまった!」
「ふひゃああああ落ちるである!」
キング・レッドはそのまま外へ飛び出した。
「リクヤぁ!」
ミソラは慌てて戦艦のふちまで駆け寄って、下を見た。二人はもう点ぐらいにしか見えていない。
―上空―
「このまま心中か。考えたじゃねえかキング・レッド…!!くそったれ!!」
落下しながらリクヤは悪態をついた。
「ふへへへへへへ、俺の核は頭にあるんだ!頭の核が破壊されねえかぎり俺は死なねえ!!このままテメェを海に叩きつけてから、ミソラを抹殺してやるよ…そうすりゃあネシ様も見直してくれるかもしれねえ…」
キング・レッドはうれしそうに頭をつついた。
「そうか………そこにあるんだな…」
「あぁ!?」
リクヤは阿修羅を両手で持った。
「もう、お前のすきにはさせん…」
「何を…何をするつもりだ!?」
「努力!!」
リクヤはなんと空を蹴ってキング・レッドよりも高く跳びあがった。
「お前を手っ取り早く倒す方法を思いついたぜ」
「なんだと!?よせ、よせええええ!!」
「ベタな断末魔だな!キング・レッドォ!!」
阿修羅を大きく振り上げ、リクヤは右目をカッと開き、刀を振り下ろした。
「正義道・一本桜!!」
ザンッ!!
キング・レッドは真っ二つに切り裂かれた。
「うぎょおおおお!?」
ソイツの核は粉々に砕け散った。
「おあ、あ、ああああああ――――――――――ッである!!」
インクになりながらキング・レッドは海に落ち、黒い染みを作る。完全に消滅したのだ。
「ベタじゃねえ死に方じゃねえか、よかったな」
リクヤは、戦艦の下部に刀を突き刺していた。
「俺はまだ…死ぬわけにはいかねえんだよ」
―リクヤVSキング・レッド リクヤ勝利―
第85章へ続く