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第85章:龍腕

3001年 4月9日 午後2時15分 戦艦フリーセル 砲台付近

「ああああああ!?」

龍エース達は一斉に戦艦の敷地方面をにらんだ。

「なんだ!?」

僕が叫ぶとキャプテン・ウェイバーが険しい顔つきで同じ方向を見た。

「リクヤBOY…」
「え?」
「リクヤBOYと幹部との決着がついた」

なんだって!?

「ウンン!??どういうことだい?」

サイモンさんが驚きながらそう言った。

「おぬしとレッキは気付かんかったのか?リクヤと強大な力とのぶつかり合いが消えたのじゃ。ここまでも殺気が伝わってきておったぞ」

センネンが息を切らしながらそう説明した。

「リクヤが心配だが…今の私の任務は君たちを守り通すことだ」

キャプテン・ウェイバーは白い歯をニッと見せた。キラーン☆…よせ。

「ゆくぞ!
キャプテーン…オーシャンブルー!!

どばぁあああああああ!!

すさまじい水圧はポカンとしている龍エースを吹き飛ばした。

「うぎゃああああ!!」
「ま、待て!待ってくれウェイバー殿!」

センネンが慌てて駆け寄った。

「どうしたプリティBOY!」

ぷ…!?

「き…傷のついた龍は粉々にするな、大切なパーツを持っておる」
「そうか!わかったぞプリティBOY!
「プ…」

わかったのだろうか…。


「なんだアイツ…」
「きっとパンドラの戦士だ!こっちも全力を出さねば!!」


「な、何ですか?」

龍エースが一点に集まりだしたのに気づいたのは、僕だけか?


「み、みんな…」

僕の言葉にみんなは空を見上げた。龍エースがまるで粘土のように集まって行く。

「なんじゃ!?」
「ウンン!?」

キャプテン・ウェイバーだけは顔色を全く変えなかった。

「お前たち、気をつけろ。私の見解からして、ヤツが本気を出すぞ」
「え?」
「うおおおおおおおおあああああああああ!!」

大声をあげて、龍エースがひとつになってしまった。戦艦の半分ぐらいの大きさの巨大な龍。
キャプテンを除く一同は青ざめた。

「うひょひょひょ!」

ダンプティは龍の頭に乗っかっている。

「こ…これで手間が省けるのぉ」

苦笑しながらセンネンは言った。

「…そうですね」
「HAHAHAHAHA!諸君、何を心配しているのかね?」

キャプテン・ウェイバーは仁王立ちのまま笑っていた。笑うな、馬鹿!

「みんなには正義のヒーロー・キャプテン・ウェイバーがいるじゃないか!」
「お、正義のヒーローと自分の名前を統一させたよ、この人」
「言ってる場合ですかサイモンさん、見てください、何か吐き出すつもりですよ、アイツ…」

龍エースは身体を大きく膨らませていた。

「いかん!!物陰に隠れろ!」

4人は近くの壁の陰に隠れた。


「ドラゴンブレス!」

辺り一帯は炎に包まれた。

「なんという威力じゃ…ワシの最強技と同じ威力とは…!!」

センネンが声を漏らした。

「きゃあああ!」

ミサの声!見ると、ミサの隠れているところにまで炎がのぼっていた。

「ミサ!」

このままじゃミサが…!!

「レッキ、ミサちゃんを頼むよ」

サイモンさんが槍を握り締めながらそう言った。

「え?」
「アイツは…僕がなんとかする」

ゆっくりと立ち上がった。

「エース!僕が相手だ!かかってこい!」

サイモンさんが叫ぶと、エースは大声で笑い出した。

ひゃはははははははは!!また貴様か!今度は、丸焼きにしてやるぞ!覚悟しろ!!」

バッ!

サイモンさんが消えた。いや、サイモンさんはガイアーの力でエースの頭に飛び乗ったんだ。

「!?速い!」

キャプテンが驚いて叫んだ。

「ぐ…サイモンさん…」
「おぬしも早くミサを助けに行け」

センネンは身体を押さえながらそう言った。

「心配いらん、私がいる」

キャプテンも笑みを浮かべてそう言った。

「…」

後ろでミサが悲鳴をあげている。

「ミサッ!…わかりました!みなさん気をつけて」

僕はそれだけ叫び、炎の中に飛び込んだ。


龍エースの頭


「ウンン…」

龍エースの頭の上では、ダンプティが卵をお手玉のように操っていた。

「うひょひょ!エース、コイツどうする?」

エースは答えた。

「適当にあしらっちまえ。注意すべきなのは、あの魚人戦士だ」
「うひょおお!!」

ダンプティは大きく飛び上がった。そして、下にいるサイモンに向かって卵を投げ飛ばす。

「ビックリエッグ・隕石!」

ビックリエッグがまるでフレアーのように降り注がれていく。

「大旋風!!」

サイモンはすばやく槍を振り回し、卵を吹き飛ばした。

「うひょおおお!?」

サイモンは周囲を見た。ちょうど両側に龍の触覚のようなものが対に生えているのがわかる。

「ガイアー!!」

触覚に腕を巻き付け、パチンコのように自分は大きく後ろに下がった。

「うひょ!?やべえ!び、ビックリ―」



「羅刹・猿土貫」


すさまじいスピードでサイモンはダンプティの身体に槍を突き刺した。

「ぴぎぃぃぃぃぃぃぃ!」

ダンプティの身体に刺さった槍は、龍の身体に突き刺さった。

「そこで黙ってろ」

サイモンはそう言うと、龍の頭にしがみついた。

「ガイアー!頼むぞ…」

肩の腕は頭に狙いを定め、すさまじい勢いで殴りつけ始めた。

「うぐぅうう!」

エースは暴れまわる。サイモンはいまにも振り落とされそう。

「もう絶対に離さないぞ!」

サイモンは震えながら龍エースの耳まで這って行く。


「やはりあやつ、パーツを取るつもりじゃ!」
「HAHAHAHA!パーツな!うん!」
「あんた…本当にわかっとるのか?」


「野郎…させるか」

龍エースは戦艦から離れた。

「ぐわっ!」
「このまま戦艦に叩きつけたらお前はどぉなる!?ひゃははははは

サイモンは必死にしがみついている。

「行くぞ!!」

戦艦から離れたエースは急旋回をして戦艦に突進していった。

「仲間のことなら心配いらねえぇえー!この戦艦は俺の力では壊れねえからな!お前を叩き潰してからゆっくり料理してやるわぁい!!」

龍エースは笑いながらさらにスピードをあげた。

「死ねぇ!」

そのまま首まで登ってきていたサイモンを壁に叩きつけた。

ズドォッ!

「ぐべぇっ!!」

グシャァ!

サイモンは戦艦の厚い壁を突き破って転がって行った。

「ひゃははははは!!」

ポッカリ開いた穴から、笑みを浮かべた龍エースが覗き込んでいた。
サイモンは血だらけになってまるで丸太棒のようになっていた。

「ひゃははははは!!」

龍エースはサイモンが死んだと思い、大笑いしながら戦艦を登って行った。


「改造人間の強度をなめるなよ…!!」

サイモンは震えながら立ち上がった。

「ガイアー…僕にもっと力を…!」

『くくく…まだ動けるか青年』

ガイアーエイプの声がした。

「当たり前だ…僕は負けるわけにはいかないんだ」

『お前には待っている女がいるからな』
「エリザのことかい…でもね、他にもたくさん僕を待っている人はいるんだ」
『何?』
「レッキ君、ミサちゃん、クリス君、ロゼオ、センネン…それに、シークさん達やリクヤさん、国家機関のみんなが僕という存在を認めてくれているんだ…だから、彼らに恩を返したいんだよね…ウン…」
『青年…』
「ガイアー、僕はサイモンだ。青年じゃない」
『我が考えるには、あの龍はいくら殺してもすぐに復活してしまうという、相手の持久力を奪う戦略が得意だ。だったら、その特性をそぎ落としてやればいいんだ』
「…アーケードマスターの能力紋を破壊するのか?でも、どこにあるのか…」
『それを補助するのが、我の役目らしい…』

ガイアーはそう言ったきり、何も言わなくなった。

「ガイアー…?」


戦艦 敷地


「クッ…あの龍、登ってきおったぞ!!」

センネンは痛む身体を押さえながら立ち上がった。

ひゃははははははあ!!あの改造人間はぶっ殺してやったぜぇ!」
「サイモンをか!?おのれ貴様!!」

センネンが技を発動しようとした時、キャプテン・ウェイバーが彼の腕をつかんだ。

「お前、無理をするな」
「ぐ…ふ…」

センネンは全身の神経がちぎれそうなほどまで衰弱していた。

「ど…どうなっておる…」
「おそらく何か特殊な技を使ったんだな。わかりやすい副作用だ。…何か妙な技でも使ったか?YOU…

センネンはキャプテンの言葉にハッとした。
あの時の変身…あれの副作用だというのか。

「スピードヒールが効かんほどじゃとは…」
「やはり何かあったか…」

キャプテン・ウェイバーは呆れるように片手で頭を押さえた。

「まあいい、YOUはここを動くなよ、アイツはこの私が倒す…オーシャン!…」

キャプテン・ウェイバーが右腕に属性力を集中させた時、センネンが何かに気づいた。

「サイモン…?」

キャプテンはハッとして龍エースの尾を見た。サイモンがしがみついている。

OH、MY GOD…なんて青年だ…」
「まだ生きておる!」

龍エースは尾に違和感を覚え、下を見た。

「ああああああいつまだ生きてたのか!ちっくしょぉお!!」

龍エースはしっぽを戦艦に叩きつけた。

「うぎゃあぅ!」
「サイモン!!」

センネンが声を上げた。

ひゃははははは!!俺にたてつくからこうなるんだぜ!!骨まで砕けろぉ!」

しかし、龍エースの笑みは青ざめていった。

ぎぎぎぎぎぎ…

サイモンはガイアーの腕で戦艦の壁としっぽを押さえつけていた。

「うぐぐぅぅ!!」
「こ、こ、この…!!」

龍エースはワナワナと震えながらその場から離れた。

「ガイアァ…」

サイモンはガイアーの腕を大きく後ろに引き、すさまじい勢いでパンチの連打を放ちだした。

「猿腕・機関砲!」

打撃は龍エースの腹に命中した。

「ぐべらぁ!!」

龍エースの口からインクがこぼれでた。

「く、くそぉぉ…火事場の馬鹿力か…!!」
「ウン…油断したね、アーケードマスター」
う…ひゃ、ひゃは!!う、うるさい…もう怒ったぞ!!お、お前にも俺の本当の恐怖をじっくりと思い知らせてやるぜ…あの情けない銀髪のようにな!!」

ウン…クリスのことか…?

「情けないだと…」

サイモンは震えだした。

「仲間を…馬鹿にするな」
ひゃははは!仲間意識が強いようだな!俺は違うぜ!トランプ戦団幹部連の中では下っ端なほうだが、この力を使えば俺は戦団最強なんだ!下手すりゃあネシ様、いや、ネシよりも強いんだ!わかるか?!ひゃはははは!」
「その減らず口…二度と使えなくしてくれる…」

サイモンの口調が変わった。後ろの方でセンネンは目を丸くした。

「あやつ…サイモンか?」

サイモンは周囲を見回した。鉄壁が剥がれ、機械の部品が散らばっていた。その中に巨大なバネがあった。

「これでいいか?」

サイモンは聞いた。


『ああ』

ガイアーは楽しそうにこたえる。


「ガイアー・ブソウ+スプリング!」


ガイアーの腕が、バネの上に覆いかぶさり、飲み込んでしまった。

ぎゅるるるるるるる!!

同時にサイモンの肩に生えるガイアーの腕は、バネ状に変化していた。

「ななな!?」
「ガイアーが教えてくれたよ。彼の本当の力、それは周囲にある物質を武器として取り込む能力、ブソウさ…」

サイモンは冷静につぶやいた。

「だ、だからどうした?!お前のその奇妙な腕がバネになっただけじゃねえか!」

龍エースはそう叫んだ。

「…だけ、だと思うか?」

サイモンはクスリと笑った。

「…!?」

サイモンが風のように消え去った。

「え!?え!?」
「エース!上だ!!」

串刺しになったダンプティが叫ぶ。見上げると、サイモンがバネの腕で飛び上がっていたのが見えた。

「ブソウ!」

サイモンが叫んだ。

「ぐ!!何を取り込むつもりだぁ!!!」

龍エースは炎を吐きだした。

「ガイアー・ブソウ+ドラゴン」

サイモンがそう言った瞬間、辺りは炎につつまれた。

「サイモン!」

センネンが叫んだ。

「ひゃはははは!ざまあみろ今度こそ!今度こそ終わった!」

龍エースは大笑いしていた。龍エースの頭上では黒い煙が立ち上っている。

「こざかしい真似を…」

煙の中から声がした。

「は…!」

龍エースの表情が変わった。

「龍のうろこは炎を防ぎ、龍の爪は、鉄をも切り裂く…」

何かが見えた。煙の奥から龍の頭が…。

「あ…ああ」

龍エースは仰天した。

煙の中から現れたのは龍のような生物だった。赤黒く光った鋭い眼、ふたつのとがった角、真っ黒に染まった鋭い爪、4つにわかれた巨大な翼、そして、蒸気を吐きだしている巨大な口。

センネンは、龍の外殻の奥に、黒いスーツとオレンジ色のケープがかくれているのにようやく気づいた。

「も、もしや…」

「ブソウ完了…
龍腕武神とでも言っておこうか」

サイモンの声だ。

「もしやあやつ、サイモンか!?」
「他に誰がいるのさ」

サイモンがこっちを向いた。

「すぐにそっちにいく。キャプテン・ウェイバー、センネンを頼みます」
「…OK☆…」

キャプテン・ウェイバーは笑みを浮かべた。キラーン☆…よせ。

「な、なんだったんだテメェ!」

龍エースは歯ぎしりをしながら龍と化したサイモンを見つめていた。

「条件だよ」

サイモンがつぶやいた。

「あぁ!?」
「この状態になるには、龍の姿をブソウする必要があったらしいんだ。ウン、ガイアーもひどいよな…この力はさっき聞かされたばっかりなんだよ」

サイモンは口をあけた。真っ赤な口からは膨大な量の蒸気が噴き出ていた。

「さて、恐怖を思い知らせてくれ、僕に」
「な、なめやがってえええ!!」

龍エースはサイモンを睨みつけた。

「し、心配ない…相手は自分よりもはるかに小さい。自分のこぶしぐらいの大きさじゃねえか。こんなやつ、飲み込んでやるぜ!!」

龍エースは巨大な口を開いた。

「食い殺す!!」
「!!」

ガブッ!

龍エースはサイモンの上半身にかぶりついた。

「ぐぶぶ…ぐうう!」

ガジッ!ガジュッ!

「…ぐ…ぐぐ…」
「これが、君の恐怖か」

サイモンが口の中でつぶやいた。

「わざと受けて損したよ。
ガイアァァ!


バジュッ!!


サイモンの両腕が龍エースのアゴを打ち砕いた。

「うぎぇええ!!いでぇえ!!」

龍エースは口をおさえながら空中をのたうちまわった。

「…」

サイモンは龍エースを見つめていた。早く、能力をつかえ、その時がチャンスなんだ。
汗を一筋流し、サイモンはその瞬間を狙っていた。

「ぐ…!!こうなったら!!アーケードマスター!!」
『ガイアー!』

サイモンは心の中で叫んだ。


『任せろ…』

ガイアーは龍エースの身体に何かセンサーを当てる。

「急げ…何十体も増えられたらこの状態でもやばい!」

『見つけたぞ!ヤツの能力紋は腹の辺りの内部だ!』

ガイアーは叫んだ。

「よし!!」
「ひゃはははははは!今度は数千体に増えてや―」
「うおおおおお!!」

バジュッ!

サイモンは全速力で突進し、龍エースの腹を打ち抜いた。

「ぎゃ…!?」

龍エースはひきつった笑みのまま自分の腹を見た。穴があいている。能力紋は粉砕された。

「ぎゃああああああああああああああ!!」

龍エースは叫んだ。痛みは感じないはずなのに激痛が走った。
それだけじゃない。無敵な能力が使えなくなったという恐怖も、その絶叫に含まれていた。

「やったぞ!これでヤツは能力が使えない!」

センネンがうれしそうに叫んだ。

「やったな、ドラゴンBOY

キャプテン・ウェイバーもそう言った。

「…アンタは黙っておれ」


「ぎゃ、ぎゃあああ!!」

龍エースは背中を向けると戦艦から離れ、飛びながら逃げ始めた。

「逃げるな…パーツをよこせ…」

インクまみれのサイモンが龍腕を向けた。

「貴様は僕の仲間を傷つけ愚弄した…許すわけにはいかない……龍の力を持って、断罪する…龍腕…」



「逃げると思ったか!!」


龍エースが振り返って膨大な量の炎を吐きだした。

「も、も、燃えろカスがぁっ!!ひゃっはははぁ!!



「ドルマ・ツイスト」


サイモンは赤黒い目を見開き、そう叫んだ。

カッ!

炎が爆発し、龍エースの頭が粉みじんに吹き飛んだ。

「ぴ b s ?ッ ・」

龍エースは何か言ったが、もう聞き取れなかった。


ただ、彼にわかったことは、サイモンが自分よりも巨大な龍と化して頭を打ち砕いたことと、自分の核を破壊したということ、自分の耳からパーツを奪い取ったということ、そして、自分がもう能力を使えなくなっていたということだけだった。



ピロリロラリロ~♪


GAME OVER


エースのインクは海を派手に汚染した。

最後まで大迷惑なトランプ人間である。




サイモンVSエース サイモン勝利


第86章へ続く

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