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ちょいとした小話1(運命)


彼がその少年と出会ったのは10年も前。
少年はある小さな街の路地でうずくまっていた。

「何だ?ゴミかと思ったらガキじゃないか。」
「いやねえ、汚いし、衛生的にも悪いし、出て行ってくれないかしら。」

街の人々が集まってきた。

「おいガキ、この街は汚い人間を置いとく程優しい街じゃないんだよ。出てけや!」

一人がその少年の金髪の髪を引っ張った。

「あう、や、やめ…て…。」
「うるせえ!」

少年は街の入口にまで連れて行かれた。

「おら、これも一緒に持ってけ!」

街の人々がゴミの詰まった袋を投げつけた。中には石を投げるのもいた。

「あ、ああ、痛いよ、助け…て。」
「ハハハ、汚ねえ!ハハハ!」

人々は笑いながら少年に石を投げつけた。ゴミを投げるやつは一人もいなくなった。石だけをひたすら投げつけた。

「死ね、死ね!」
「痛いよぉ…。」
「おし、今度はこいつだ。」

街の人々が大きな石を持ち上げた時だった。


その男は現れた。


「ちょっと、何やってんのさ、あんた等…新手のお祭りかなんか?」

男は、ゴミと血にまみれたその少年を見つけた。

「なっ…!」

男はしばらく固まっていたが、やがて声を上げた。

「お、おい!何してんだよ!何子供に石ぶつけてんだよ!!」

人々を押しのけて、その男は少年の元へ駆け寄った。

「おい!しっかりしろ!生きてるか!?おい!」

少年はグッタリして、意識を失っている。

「ねえ、その子あんたの家族かなんかか?」

街の人の一人がそう言った。

「ならさ、汚くてかなわんから…連れてっておくれよ。」
「俺たちの街に孤児は要らないんだよ。」
「そうだ!そうだ!」

街の人々は口々に叫んだ。

「何でこの子をいじめる!?同じ人間じゃないか!!」

男は悲痛な声で叫んだ。

「ハンッ?ふざけんなよ…そんな汚いガキと俺たちを同じにしてほしくないね。」
「もう、くだらない事言ってないで早く出てってよ。汚くてしょうがないわ。」

人々はそう言い放った。
男は呆れと怒りの混じったため息をつくと、少年を抱きかかえ、静かに街の外に歩き去って行った。




「う…ん。」

少年は目覚めた。そこはテントの中だった。外は森のようだ。

「おう、起きたか。大丈夫か?一応、応急処置はしたが…。」

男が少年の顔を覗き込んだ。

「あ…ああ…。」

少年はガタガタ震え出した。

「お?お?どったの!?」

男はびっくりした。少年が驚くのも無理もない。
その男は全身を真っ黒な神官の服で包み、頭はシルクハットで隠しているのだから。
子供目線ではお化けかなんかにしか見えない。

「俺はあの街の連中みてえに石なんざぶつけねえよ。それよか、ホレ、これでも飲めよ。」

シルクハットの男は白いスープを渡した。

「ある女から作り方を教わった元気の出るスープだ。飲めや、うめえぞ。」

笑いながら男は少年の頭を撫でた。

「…。」

少年は恐る恐るスープを一口飲んだ。

「どうだ?」
「おいしい…。」

少年は涙を流していた。

「え?ええ!?」

男は再度びっくりした。

「ヒック…ウッ…イッ…ヒッ…。」

せきを切ったように涙が滝のように流れ出した。

「あまりのうまさに感動したのか!?」

男はそう叫んだ。多分違う。

「ずっと…何も食べてなくて…。」

少年は泣きながらそれだけ言った。

「なぁんだ、そういうことかよ…ほれ、まだあるから、たくさん食べろ!」



少年が落ち着いたのを確認して、男は彼の横に座った。

「どうして孤児になっちまったんだ?お前…。」

少年は涙を浮かべていたが、やがて、口を開いた。

「僕は、お姉ちゃんと遊んでたんだ。河原で、お魚探してた。」
「うん、それで?」
「それで、家に戻ったら……。」
「………戻ったら?」
「…戻ったら………みんな燃えてたの。」
「も、萌えてた!?」

漢字が違う。

「お父さんがタンスの中に隠れてろって…。僕とお姉ちゃんは一緒に隠れてたの。それで、お母さんとお父さんが変な人達に叩かれたの。」
「変な人達?」
「とっても怖い顔してたの。」
「怒ってたのか?」

ううん、と少年は顔を横に振った。そして、再びガタガタと震え出した。

「“笑ってた”の…人を刺したり、叩いたり、銃で撃ちながら、笑ってたの…。」

涙が流れ出した。

「笑ってたって…。」

男は思った。それは蒼の騎士団だ。

「お父さんとお母さんは動かなくなって、その怖い人達に連れてかれたの。それで、怖い人達がタンスを開けて、お姉ちゃんを捕まえたの。洋服の中にいた僕には気が付かなかったみたいだけど…お姉ちゃん泣いてた。『助けて』って言ってた。でも、僕、助けれなかった。誰も助けれなかったぁ。」

少年は我慢できなくなったのか泣き出した。

「うああ、ああ、ごめんなさい、ごめんなさい、みんな捕まったのに、僕…逃げちゃった。助けられなかったぁ。」
「もういいよ、ごめんな、いやな事聞いちまったな。」

男は少年を抱きしめた。

「ちくしょう、かわいそうに、まだ子供じゃねえか…。」
「あああ、ああああ!」

少年はひたすら泣き叫んでいた。



「ヤッ!ハァッ!」

翌日、男は河原で体術の訓練をしていた。

「おじさん、何してるんですか?」

少年が目をこすりながら起きてきた。

「おじっ…俺はまだお兄さんだぞ。」

男はガックリと肩を落とした。

「俺の名はシーク・レットだ。これからはそう呼べ。」
「はい…。」
「お前は?何て名だ?」
「レッキ…レッキ・K・ジュ―ド。」

レッキ・K・ジュ―ド…高貴な身分の名だな。
シークはそう思いながら体術の訓練を再開した。
レッキは黙ってそれを見つめていた。


その晩、レッキはシークにこう頼んで来た。

「僕に体術を教えて下さい、シークさん。」
「あん?」

シークはパンをかじりながら顔を上げた。

「僕、強くなりたい。強くなって、蒼の騎士団を倒したい。」

レッキは怒りの表情を浮かべていた。シークは一つ疑問に思った。

『コイツ、笑わないな。』

シークはレッキの笑顔を一度も見ていなかった。

「……いいだろう、ただし、この武術、神技は…生半可な覚悟では修得できないぞ。お前に、辛い修行を受ける覚悟はあるのか?」
「あります!」

シークは黙ったまま、パンを手渡した。

「俺のことは師匠と呼べ。」



それから、レッキの長い修行が始まった。

「まずは精神を鍛え、神技を発動させるための肉体を作り上げる。」

レッキは座禅を組み、目を閉じている。

「雑念を消せ、心を無にしろ!」

その後、シークとの組み手。あざだらけになっても、レッキは耐えた。精神と肉体の修行を何度も繰り返し、その結果、

「やった、これが、神技の呼吸…。」

レッキは神技を使える身体を作ることができたのだ。

「やった、やったぞ…。」

レッキは自分の両手を見つめていた。

「レッキの奴、やっと笑ったな。」

シークは笑みを浮かべた。
レッキの表情は笑っていなかったが、それでも、彼にはレッキの笑顔が見えた。そして、



3年後――



「この村は…。」

レッキとシークはある荒れ果てた街を見つけた。
そこは、レッキとシークが出会った街だった。

「ひどい…。」

レッキは声を漏らした。

「蒼の騎士団だな。」

シークはそうつぶやいた。
人々はほとんど殺されていた。銃で殺されたもの、バラバラにされたもの、様々な種類の死体を眺めながら、2人は一人の生存者を見つけた。

「助けて…。」

そいつは、レッキに石をぶつけていた男だった。

「お願いします、助けてください、俺はこいつらを盾にして、銃撃を避けたんだ。でも、銃弾が数発当たって動けなくなったんだ。や、奴等また戻ってくる。こ、殺される。」

レッキは冷たい目でこう言った。

「何故です?あなたはこの出血ではもう死にます。そんなムダな人間を助ける義理等ありません。」
「そ、そんな…。何で見捨てるんだ!?同じ人間じゃないか。」

男の言葉に、レッキは目を見開いた。

「同じ人間?…そんな汚い心を持つあなたと、僕達を同じにしてほしくない。虫唾が走る。」

その言葉に、男は仰天した。

「あ、あんたまさかあの時の…!!」

踵を返して、レッキは歩き出した。

「師匠、僕はこの街に自分の姓を捨てます。」
「……何でだ?」
「昔の僕は弱い僕だった。あの時の僕…レッキ・K・ジュ―ドはここで死んだ。これからの僕が新しい僕だ。もう、弱くならない!」
「そうか…。」

と、シークはつぶやき、横に倒れる男を見つめていたが、やがて、彼の後を追った。

「助けてくれ、だ、誰か…あ、ああ……………ぁ……。」

愚かな男は2人が去った後、事切れた。



それから7年後、アルスタウンにて―

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