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ちょいとした小話2(遺伝)


「薄い色の髪ね。」

3才の時に、近所の女の子からそう言われたのがきっかけだ。この髪の色がキライになったのは。
私の名前はソロモン。姓は当の昔に捨てた。ゴメン、嘘だ。これから学校に向かうところだ。
今日は私の記念すべき中学校入学式の日。

「ソロモンも中学生かぁ。わたし、“青春”とか、経験ないんだよねえ」

お母さんがつぶやいた。私のお母さんは、白いミニスカートに白いフォーマルスーツ。口紅しかつけてないのにキレイな顔。おまけに頭もよくて容姿端麗。
お母さんとしては周りから羨ましがれる存在でもある。しかし、私は違う。

「お母さんって…中学にも行ってないのに、何でそんなに頭がいいの?」

お母さんは笑って答えた。

「ソロモンのお父さんは学校に行かなかったけど、猛勉強してあんなに頭がよくなったの。ソレと同じ♪」
「わかんないよ。」
「あら、残念。」



「これより入学式を始めます。入学生、一同、起立!」

―シュバッ!

みんなテンポいいな。2、3秒遅れて私も立ち上がった。
後ろをチラリと見ると、老けたおばさん達の中に、お母さんが笑顔で手を振っている。

「あの人美人だなぁ。」
「誰の母さんだよ。」

そんな声が聞こえる。恥ずかしいな。手を振らないでよね。

「ソロモン君。」

急に呼ばれ、慌てて立ち上がった。

「ハ…ハイッ!」

ザワザワ…。やっぱり。私の名前は女向きではないのだ。

「…ビリー君。」
「ハイ」

点呼が再会された。


私の名前のせいで赤っ恥よ。休憩時間でお母さんに発した第一声である。

「あら、どうして?」

お母さんはニコニコしながらそう返した。

「どうして私はソロモンなの?女なのに、男みたいな名前なんて嫌よ。」

困ったような顔をして、お母さんは中腰になった。

「今更ワガママ言わないの。ソロモンはあなたが生まれる前からず―――っと、お父さんが考えてくれた名前なのよ?」
「だったら、お父さんが悪いんじゃない!」

私の言葉に、お母さんが顔色を変えた。

「ソロモン、今のは酷いわ。お父さんが悲しむわよ?」
「知らないわ!」

私は踵を返して、自分がこれから通う教室に向かった。


「お前がソロモンかよ。」

クラスの男子やら女子やらが私の席に集まってきた。

「男みたいな名前。ダサいんだよ。」
「アンタこれからアタシ達のパシリちゃんね。」
「そ、そんな…。」
「何か文句でもあんのかよ!!!」

私は蒼白な顔をしていたようだ。
もう終わり。少なくとも、この1年間は絶望の学園生活だ。


そして放課後。帰り道でお母さんは口を開いた。

「どうだった?新しい教室は。」

さっきの事は忘れてくれたらしい。でも、

「お母さん…私、もう嫌だよ。」
「え?」

お母さんは目を見開いた。

「どうして私だけこんな目に遭わなきゃなんないわけ?」

私は泣いていた。

「…クラスで何かあったの?お母さんに話してみなさい!」

お母さんが私の肩に触れる。

「お母さんとお父さんのせいよ!」

私は涙を流して走り出した。

「ソロモン!」


それから私は、自分の部屋のベッドでずっと泣いてた。
学校に行きたくない。もう嫌だ。

「ソロモン、入るよ。」

お父さんの声だ。優しい笑顔のお父さんが入ってきた。

「学校でいじめられたんだって?」
「…。」
「お父さんのせいか…ソロモンって、女の子にしてはらしくないもんな。」
「何でこんな名前にしたの?」

私はそう叫んだ。お父さんは黙っていたが、口を開いた。

「ソロモンって名前の意味、知ってるか?」
「…聖書に載ってるソロモン王の事でしょ?」
「違う違う。それもあるけど、“天の柱”ってところで使われていた言葉の意味もあるんだ。」
「え?」

一息つくと、お父さんはこう言った。

「“希望”って意味だよ。この戦争で疲れきった世界で、希望に満ちた世界を作っていってほしい。そんな思いを込めて、ソロモンって名前にしたんだ。」
「…。」

私は黙ったまま、うつむいた。

「これが、ソロモンって名前にした理由だよ。」

お父さんはそれだけ言うと、部屋から出て行った。


「あなた…。」
「一応言うだけ言ったよ。」

ソロモンの父はため息をつきながらソファーに座り込んだ。

「でも、いじめられるなんてかわいそうよ。」
「そうだな…。」

めがねを調えながら、彼はソロモンの部屋の扉を見つめた。


翌朝、私は学生服に着替え、パタパタと階段を降りた。

「お母さん、おはよう!」
「!!…お、おはよう。」

お母さんは驚いた顔をしている。

「どうしたのよ、そんな顔して。あ!お父さん、まだセントラルに行かなくていいの?」
「え?…う、うん。」
「もう!遅れちゃうわ!初日から遅刻なんてまっぴらゴメンよ!」
「え?え?ソロモン、学校に行くつもりなの?」
「うん!いつまでもウジウジしてたってしょうがないわ!私は“希望”なんだから!」

私はお父さんにウィンクした。お父さんは目をパチクリさせている。

「じゃあ私もう行くから!いってきます!」
「い、いってらっしゃーい。」

2人は揃って私を見送った。


「功をそうしたわね。あなた。」
「…あれで元気になるとは、君の血をひいてるだけあるね、ミサ。」
「あなたのその勇敢な心もしっかり受け継いでますの。あ・な・た♪」
「…そうですか…?」
「そうですの。」
「…。」
「…。」
「…でもさ…。」
「何?あなた。」
「君の天然なとこは受け継がなくてよかったよ。」
「う…それを言わないでよ。」 

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