ちょいとした小話3(縁談)
これは国家機関のある男をクローズアップした実録の物語である。
「縁談だぁ!?」
ロキはくわえていた葉っぱを落とした。
「そうだ。ドン・グランパが縁談を薦めてくれたのだ。喜んでいいぞ。俺が許すから。」
「何で俺なんだよ、面倒くせえな。」
「シークにはアリシアがいて、マシュマには許婚がいて、フェスター指揮官は結婚済みで、キャプテンはどうでもよく、俺はモテるからだ。」
最後のムカツクッ!!
ロキは若干顔を引きつらせた。
「とにかく、ドン・グランパが用意してくれた縁談だ。受けんと俺が許さんぞ。」
「嫌だよ、面倒じゃねえか。」
「うわぁ出たぁ!またそうやってお前は面倒面倒面倒と!そんなだからお前は女関係がうまくゆかんのだ!ジャクリーンは元気か!?」
「だぁぁぁッ!その話題に触れんなぁ!!」
「フラれたのか。見ろこのお見合い写真を、どいつもこいつも選りすぐりの令嬢だぞ。玉の輿だ、玉の輿。」
スチルは数枚の写真を取り出した。
「興味ねぇよ。俺は俺の人生をエンジョイしたいんだ。」
「ハッ!片腹痛いわ、お前のエンジョイライフ等たかが知れている。」
「貴様の分際でたかを知るなぁ!とにかく俺はそんなくだらん縁談なんぞ受けん!」
「な、な、貴様、ドン・グランパの縁談を蹴る気か!?」
「何やってんだ?あいつら。」
シークが遠くから様子を見ている。
「コントじゃねーのか?」
マシュマが適当に答えた。
「そんな事許さんぞ!大体ドン・グランパの縁談を受けんとは、命知らずにも程があるわ、この、“COSMOS界のダイ・ハード”が!」
「わかりづれぇ例え入れんな!頼むからほっといてくれ!」
「何故嫌がる!?お前は金持ちになりたくないのか?」
「うっぜぇなぁ!!とっととそれ持って帰れやぁ――ッ!その見合い写真を持ってよぉぉぉぉぉ!俺を怒らせる気かぁぁ!?」
「みんな美人だぞ。」
「おぅ見せろや。」
「何だ?縁談受けるつもりかよロキ。」
「お?…おぅ。」
ロキはシークの言葉もまともに聞かず、見合い写真を見ている。
『うっひょお♪マジ美女だらけじゃねーの!』
「うひょ、うひょひょ♪」
「うげっ…アイツ笑ってやがる…なんか不気味だ。」
シークは引きつって後ずさりをする。
「聞いたぞ。ロキが見合いを受けるらしいなゴフェェ!」
フェスター指揮官が吐血をしながら現れた。
「ぎゃあぁぁ!ビックリしたぁぁぁ!」
フェスター指揮官は手際よく常備薬を飲み込み、ロキの元に嬉しそうにスキップしていった。
「ふふふ、お前も将来について考えるようになったのかぁ!感心感心♪」
「お?…おぅ。」
ロキはフェスター指揮官の言葉もまともに聞かず、見合い写真を見ている。
「お?」
その内の一枚に同僚、フリマ・ドンナの写真が載っていた。
『あの女…俺に好意なんでねぇくせに。』
ロキは険しい顔つきでフェスター指揮官を見つめた。
「これはスチルに知らせん方がいいな。」
「もう手遅れだぞ、プロのオッサン。」
スチルが青ざめた顔で後ろに立っている。
「姉貴ぃぃぃぃぃ!!!これはどういう事だぁぁぁ!?」
凄い剣幕でフリマにスチルが迫る。
「さぁ~?」
「『さぁ~?』じゃねえええええええええええ!!!!」
スチルはワナワナと震えている。
「うちも恋ぐらいしたいんよ。」
「ロキとか!?」
「お?この和風美人なんていいな♪」
ロキの目が輝いた。かわいい着物姿の女性が写っている。
「ほっほぉ、紹介文が付いているぞ。」
シークが紙きれを拾った。
「なになに?『当社で発売した最新鋭の和風お手伝い少女、“ロボ姫ちゃん”学習能力もあるのでたくさん言葉を覚えさせましょう。byプヨン』」
「ロボットじゃねぇかあああああ!!!!」
ロキは見合い写真を床に叩きつけた。
「ああもったいない。いくら機械でも縁談の相手だぞ?」
スチルがそう言った。
「どこの世界にロボットと見合いするアホがいるんだ!?しかもプヨンて!プヨンが作った縁談の女性て!」
「今日のロキ、テンション高いわねぇ。」
と、アリシア。
「たりめーだ!今回俺が主役だぞ!?」
「なんだなんだぁぁ!どれもこれもいわくつきばかりじゃねえか!やっぱりな!俺は受けない方がよかったんだ。そういう神のお告げよ!」
「でもよぉ、神といっても人の縁談に興味はねーだろ。」
シークは腕組みしたままそう言った。
「やかましい!もういい!俺は帰る!縁談も受けない!あのハゲジジイめ!俺をナメてるとしか思えねぇ!」
「ハゲジジイ!?ドン・グランパの事か!?貴様、訂正しろ!!」
スチルは青ざめた表情でそう叫んだ。
「ヘッ!!あんな石頭ハゲジジイを訂正する事ぁねえな!」
「ロキの野郎、後ろにドン・グランパがいる事に気付いてねーみたいだな。」
「ほっとけ。」
「ずびばせん、今のびんな嘘です。本当です。」
仏滅のような形相のドン・グランパの前にボコボコにされたロキが正座している。
「俺の用意した縁談を断ろうとはいい度胸じゃねえか、ロキ・フレイマァァァァ…。」
「しかし、今回は酷すぎますぞ。何ですかロボ姫ちゃんて。」
フェスター指揮官がそう言った。
「うむ……それもそうだな。よし、こうしよう、お前が満足するとぁわからんが、俺の“孫娘”を見合いに出そう。」
ドン・グランパの…孫ッ!?
「………………。」
と、一同。
「…ん、何だぁ!?何か文句でもあんのかぁぁ!?」
「無いです無いです。」
「よっしゃ、明日必ず来いよ。来なかったらお前のまぶたを溶接してやるからな。ではサラバだ。」
ドン・グランパはスキップしながら飛んでいった。
「…。」
ロキはガックリと肩を落とした。
「ロキ、頑張れ、必ず生きて帰れよ。」
スチルがその肩を軽く叩いた。
「他人事MAXかテメェ…。」
七三分けにスーツを着こなすロキ。
ドン・グランパの家の前で震えている。
「ぎゃはははははは、誰だテメェェェ!!ぎゃはははは!」
マシュマが笑い転げている。
「グッ!」
「コラコラ!マシュマ、人を見て笑うもんじゃない。」
フェスター指揮官がマシュマを諌めた。そしてロキを見て、
「プッ!」
この野郎…。
「やっぱ帰る。」
逃げようとしたロキをシークが取り押さえる。
「シーク!てめぇアリシアに追いかけられてた時助けてやっただろうがぁ!あの時の恩義はどうした!?」
「すまねえな。ドンさんにだけは逆らえねぇ。」
そのままロキをドン・グランパの家に投げ込んだ。
「さぁ~みんな、これからピクニックだ。」
フェスター指揮官がいつのまにかリュックを背負っている。
「わ~いわ~い♪」
そのままパンドラ一行は走り去っていく。
「こ、コラァ――――ッ!本当に置いてくつもりかてめぇらぁぁぁぁ!!!」
ロキはそう叫んだ。が、案の定、行ってしまった。
「ようこそ、我が家へ。」
ドン・グランパはこの世の者とは思えない笑顔でロキを迎えた。
「おじゃましまぁす…。」
ロキは縮こまって玄関から足を踏み入れた。
「おこんにちは。」
「ひぃっ!」
化け物が突然ロキの目の前に現れた。
顔がもの凄くでかい。まるでモアイのようなその生物は口を開いた。
「ようこそ、アタクシ、ドンファミリーの長女、ドン・キャサリンですわ♪」
と、言いたいらしいのだが、ロキには奇妙な唸り声にしか聞こえない。
「ちなみにアタイはドン・クリスティーナ♪」
剛毛の巨人がそう言いたそうに唸りながら顔を出した。
「ほぎゃあああああ」
そりゃあ悲鳴も出るさ。
「なにをしている。こっちだ。」
ドン・グランパがロキを掴んで奥の部屋に連れて行った。
「待っていろ、アンジェリカは人見知りでなぁ。恥ずかしがり家なんだ。」
「へ、へぇ~、それはかわいらしいですね。」
「ふっふっふ、そうだろうそうだろう。」
はしゃいでいるドン・グランパはよそに、ロキは泣き顔で笑っている。
『ちくしょう、最初がモアイで次が野人、今度はどんな化け物だ!?』
ロキは部屋の扉を凝視している。
「お、お待たせしました…その…ドン・アンジェリカです…。」
部屋から出てきたのは、今までに見た事のない美女だった。
『ビバ、ベタァ!!』
ロキは心の奥からそう叫んだ。
「さぁさ、俺は邪魔だな。仲良く会話でもしなさい。」
ドン・グランパが部屋から出て行った。
「あ、あの…。」
「まだ緊張しているんですか?ははは、実は僕も緊張しているんですよハイ。」
さっきの怯えようからマッハレベルの豹変ぶりである。
「いやぁ~しかし、お美しい。今まで見た事のないお方ですよ貴女は。」
「そ、そんな…。」
アンジェリカは顔を真っ赤にさせる。
「かわいいな~♪絶対嫁にもらってやるぜ―」
「オウオウオウオウ!!何客待たせてんだよ!茶ぁ早くもってこいやクズがぁぁぁ!!」
アンジェリカは仏滅みたいな表情でお手伝いに怒鳴った。
「殺されてぇのかぁ!?指かっさばくぞこの×××野郎がぁ!!」
「ヒィィィ!!」
お手伝いは走り去って行った。
「…………。」
アンジェリカは可愛らしい笑顔に変わると、ロキにこう言った。
「結婚を前提にお付き合いしませんか?」
ロキは笑顔で答えた。
「お付き合いしません!!」
「で、死ぬ気で逃げて来たわけよ。」
「へー…それは大変だったな。」
廃人と化したロキの背中をシークがさすっている。
「おい、ドン・グランパがお見えだぞ。」
フェスター指揮官がロキを呼んだ。
「ひ、ひぃ!」
「殺されるな、きっと。」
シークは震える声でそう言った。しかし、ドン・グランパは意外にも笑顔だった。
「あ、あの…今日はどういったご用件で―」
「アンジェリカとの交際を決意したそうじゃないか!」
ドン・グランパは嬉しそうに叫んだ。
「はいぃぃぃい!?」
「これはアンジェリカからの手紙だ。展開を楽しみにしているぞロキ!はっはっはっは!!」
ドン・グランパは笑いながらズンズンと歩いていった。
手紙には『フッたら殺す。軍隊で。』と書いてあった。
「同情するぞ。」
シークは屍のようなロキの肩を叩いた。